■雀鬼と陽明 ~桜井章一に学ぶ心の鍛え方~ -三五館-
自分にいい聞かせて、それを実行する。そうすることが、意志を貫く努力になり、結果、強靭な意志を育むことになるのである。昔の私は、いつも行動が先で、後から理屈がついてきた
「少したったら連絡する」
という言葉の裏には、
勝負を前に、
勘を磨く、
勘を取り戻す、
同時に集中力と意志を強くするという、
勝負師としてのコンディション作りをしてから……、
という意味が含まれていた。
一流の打ち手というのは、
常にそれなりの修行をしているものなのである。
一日、何となく町中を歩いて帰ってくる。
帰ってきてから、
無意識で見てきたものを絵に書く、
あるいはメモしてみるのである。
by. 桜井章一氏
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出かける前に、
見て来るぞと意識するということは、
観察してくることになってしまうので、
それでは意味がないのだ。
たとえば、意識を消して、
ある通りを約五〇〇メートル散歩する。
純粋に散歩してくるのだ。
帰ってきたときに、
これから勝負をするために、
どうだろう、
という気持ちが起きてくる。
by. 桜井章一氏
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「いま歩いて来た通りに、
電信柱は何本あっただろうか?」
最初のうちは、見当違いだった本数も、
何度かチャレンジしているうちにピタリ当てられるようになる。
目にしてきたかもしれないと思えるもの、
たとえばさっき歩いてきた通りの風景などを絵に書いてみることのほうが、
無意識を意識化する場合にはさらに有効だ、
と桜井は語っている。
桜井も同じ訓練を自分に課していた。
by. 桜井章一氏
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「伏せた牌を、
一枚、一枚めくりながら、
その牌が何であるかを当てていく。
それが当たってしまうんですね。」
「だから、見えないものを当てていく……、
モーさんもそのときは全く電信柱なんか見ていないんですが、
見えないものをあとで当てるわけですよ。
(お互いに)そういう感性の勉強をしていたんですね」
by. 桜井章一氏
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「二日を完全に眠らずにいて、
もう睡魔の限界という一二時前後に寝床に入る。
もちろん眠りに就くわけだが、
そのとき四時三分前に起きようと心に決めるのだ。」
「目覚ましなんかは使わないで、である。
体は睡眠をむさぼっているのかもしれない。
あるいは意識も少しは眠っているのかもしれない。」
by. 桜井章一氏
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「しかし訓練を積むと、
まるで嘘のように聞こえるが、
ぴったり四時三分前に目が覚めるようになるのだ。
部厚い辞書を手にしていても、
パッとめくった三六九ページを、
何回めくってもそこが出るようにする。」
「ミステリーなどに熱中していても同じだ。
スリリングな場面に引き込まれていても、
いま二時五八分、
とパッと時間を当てるのである。」
by. 桜井章一氏
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「道を目を閉じて歩き、
電柱にぶつかる寸前で止まる。
無意識で吸っている煙草が、
何分何秒で吸い口にきているかを当てる」
「動く電車の内からビルの看板を見る。
そこに記してあるTEL番号を瞬時に記憶する。
次に現れる看板の形を頭の中でイメージすると、
そのとおりの形が出て来る」
by. 桜井章一氏
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麻雀は、どんなに裏技に通じていても、
技だけでは勝てない。
表技の場合も、
牌の裏側まで透けて見えるような勘が伴わなければ、
勝てないのだ。
「ふだんの生活の中にこそ、
修行の題材が存在するんだ。
みんな坐禅みたいなことはやろうとするけど…、
日常の練習の中で出来ないものが、
本番でできるわけないだろう」
by. 桜井章一氏
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前に述べたように、
三日寝ないで、
四日目に寝るときに、
目覚まし時計なしで、
明日の朝は四時五分前に起きるんだと、
自分にいい聞かせて、
それを実行する。
そうすることが、
意志を貫く努力になり、
結果、強靭な意志を育むことになるのである。
しかし、他の日常の場面で、
今この人困ってるから助けてあげよう、
といったん思ったにもかかわらず、
やっぱり面倒だから止めた、
などと自分の意志を自分でくじくようなことをやっていては、
せっかくの意志の訓練が何の効果ももたらさないことになる。
意志を貫く訓練を自らに課すことで、
五二〇〇点欲しいときに和了れるようになるというのだ。
by. 桜井章一氏
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「みんな坐禅みたいなことはやろうとするけど、
ホントのところの訓練はちっちゃいところにあるんだよ」
モーさんの麻雀は、
流れに乗った、
リズムに微塵の狂いもない、
いい麻雀であった。
しかし、ここぞという勝負の局面には、
お互いの勝負師としての性が黙ってはいなかった。
桜井は、
容赦なく勝ちつづけ、
モーさんは、
逆転の夢にかけて、
全力でぶつかってきた。
by. 桜井章一氏
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麻雀が終わると桜井は、
「もう負けた」
とモーさんがいってくれることを期待した。
「じゃあ、またな。
来なかったら承知せんからな」
モーさんは、
仰向けに寝転んだままそういうのが常だった。
引退し、安定した生活の中にいた、
俗に染まっていたモーさんは、
かつての不安定な中で闘ってきた自分が、
あの緊張感が忘れられなかったのだ。
by. 桜井章一氏
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「今ここで、牌を裏返しにして当ててみろっていわれても、
そんな感性がないんですよ。
最強戦の前だとかのように、
ピリッとした状況のときには、
その気になってしまいますから、
その気になってから開けてみると当たってるというわけなのです。」
「気がないときにやってみても当たるものじゃないんですよ。
そういう気が起こってくるわけです。」
by. 桜井章一氏
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「昔の私は、いつも行動が先で、
後から理屈がついてきた。
話せば話すほど、
書けば書くほど、
ああ、昔の俺が失われていく、
どんどん失われていく、
私は私を失っていくって感じるんです。」
「いつのまにか、
能書き人間になってしまってるんですから。
自分だけやらないでね、
お前たちやってみろ、
やってみろって、
いばってるだけの人間に成り下がっているような気がするんですよ。」
「私は、それがすごく嫌なんですよ」
by. 桜井章一氏
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半年が過ぎた頃のモーさんは、
訓練の甲斐があって、
昔の勘を取り戻しつつあった。
最初の頃とは雲泥の差があって、
ものすごく強くなっていたのだ。
モーさんが命を賭けて闘ってきている以上、
桜井はその気持ちに真剣に応えるしかなかった。
やればどちらかが死ぬという真剣の試合になっていた。
by. 桜井章一氏
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好きな人と、
真剣の試合をやらなければならなくなった桜井は、
辛くてたまらなかった。
勝負は夏までの約一年近く続いた。
徹夜麻雀を六〇回は打っていた。
「父は……、死にました……。
麻雀を終えてそのままだったようです。
死因は、急性心不全ということです。
もともと父には、心筋梗塞という持病があったんです」
by. 桜井章一氏
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こうなるかもしれないということは、
分かっていたはずだった。
しかし、いざ勝負が始まると、
勝負師桜井の持って生まれた闘争心が、
黙ってはいなかった。
後へ引けなかったのである。
<あんなに勝ち続けてさえいなければ、
もっと間隔をあけていれば……>
by. 桜井章一氏
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<師匠と思おうとした憧れるほど好きな人を、
俺が殺してしまったのだ。
こんなことを二度と繰り返さないためにも、
きっかけがあれば引退しよう>
表や裏の技に長けた鈴銀やモーさんでさえも、
肉体の衰えには勝てなかった。
訓練や修行に、
肉体や脳が耐えられなくなるのだ。
by. 桜井章一氏
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